ボサノヴァの名曲を聴き始めるなら、歌とサックスの「イパネマの娘」、ジョアン・ジルベルトの歌とギターで「想いあふれて」、器楽曲の「波」が入口です。30曲の原題・作者・聴けるアルバムと発表年を一覧にしました。曲名だけでなく録音まで選び、ジャズとの違いやギター伴奏の仕組みも確かめられます。
一枚から選ぶなら、歌もジャズのサックスも聴ける『Getz/Gilberto』(1964年)、歌のない演奏を中心に聴くならジョビンの『Wave』(1967年)。声とピアノの近い響きを聴きたいなら、小野リサと林正樹の『Sue Ann』(2026年)という分け方ができます。
ボサノバは、1950年代末のブラジルで形になった、サンバを土台とする音楽です。落ち着いた歌声、拍の間を生かすギター、細やかに移り変わる和音が大きな魅力。静かな音楽という印象だけでなく、その内側にあるリズムを聴くと、楽しみ方が広がります。
- ボサノヴァ名曲30選の一覧表(作曲者と共作者・録音例・アルバム発表年)
- ボサノヴァ(ボサノバ)とは?ブラジルで生まれた音楽の特徴と歴史
- ボサノバとジャズ・サンバの違いは?
- 名曲・代表曲30選①まず聴きたい定番10曲
- 1.イパネマの娘|Garota de Ipanema / The Girl from Ipanema
- 2.想いあふれて|Chega de Saudade / No More Blues
- 3.デサフィナード|Desafinado
- 4.コルコヴァード|Corcovado / Quiet Nights of Quiet Stars
- 5.おいしい水|Água de Beber
- 6.ワン・ノート・サンバ|Samba de Uma Nota Só / One Note Samba
- 7.波|Wave
- 8.お馬鹿さん|Insensatez / How Insensitive
- 9.メディテーション|Meditação / Meditation
- 10.ソ・ダンソ・サンバ|Só Danço Samba
- 名曲・代表曲30選②ジョビンの和音と歌を味わう13曲
- 11.平和な愛|O Amor em Paz / Once I Loved
- 12.夢見る人|Vivo Sonhando / Dreamer
- 13.トリステ|Triste
- 14.三月の水|Águas de Março / Waters of March
- 15.ジンジ|Dindi
- 16.ルック・トゥ・ザ・スカイ|Look to the Sky
- 17.ファヴェラ|Favela / O Morro Não Tem Vez
- 18.フェリシダージ|A Felicidade
- 19.いまひとたびの|Outra Vez
- 20.あなたのせいで|Por Causa de Você
- 21.あなたを愛してしまう|Eu Sei Que Vou Te Amar
- 22.白と黒のポートレイト|Retrato em Branco e Preto
- 23.ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ|Só Tinha de Ser Com Você
- 名曲・代表曲30選③作曲家の広がりと周辺の重要曲7曲
- ボサノバの代表的な歌手・演奏家と名盤
- ボサノバのコード進行:記号の意味と三つの練習例
- ボサノバギターの弾き方:親指の低音と和音を分ける「バチーダ」
- ボサノバの始め方:練習の順番と道具の選び方
- ボサノバについてよくある疑問
- まとめ:気になった一曲を、低音に注目して聴いてみよう
- 出典・参考資料
ボサノヴァ名曲30選の一覧表(作曲者と共作者・録音例・アルバム発表年)
30曲のうち23曲はアントニオ・カルロス・ジョビンが作曲に関わった作品です。作者欄では、1〜23番は作曲に関わったジョビンと共作者、24〜29番は原語曲の共作者、30番は作曲者を示します。録音欄は曲を探す入口となるアルバムを示し、年はそのアルバムの当初の発表年で、曲の作曲年・初演年や、現在販売されている再発盤の発売年とは区別しています。
| No. | 曲名|原題 | 作曲者と共作者(原語曲) | 入口の録音(アルバム発表年) |
|---|---|---|---|
| 1 | イパネマの娘|Garota de Ipanema | ジョビン/ヴィニシウス | 『Getz/Gilberto』スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト(1964) |
| 2 | 想いあふれて|Chega de Saudade | ジョビン/ヴィニシウス | 『Chega de Saudade』ジョアン・ジルベルト(1959) |
| 3 | デサフィナード|Desafinado | ジョビン/ニュートン・メンドンサ | 『Getz/Gilberto』(1964) |
| 4 | コルコヴァード|Corcovado | ジョビン | 『Getz/Gilberto』(1964) |
| 5 | おいしい水|Água de Beber | ジョビン/ヴィニシウス | 『The Astrud Gilberto Album』アストラッド・ジルベルト(1965) |
| 6 | ワン・ノート・サンバ|Samba de Uma Nota Só | ジョビン/ニュートン・メンドンサ | 『Jazz Samba』スタン・ゲッツ&チャーリー・バード(1962) |
| 7 | 波|Wave | ジョビン | 『Wave』ジョビン(1967) |
| 8 | お馬鹿さん|Insensatez | ジョビン/ヴィニシウス | 『The Composer of Desafinado, Plays』ジョビン(1963) |
| 9 | メディテーション|Meditação | ジョビン/ニュートン・メンドンサ | 『The Composer of Desafinado, Plays』ジョビン(1963) |
| 10 | ソ・ダンソ・サンバ|Só Danço Samba | ジョビン/ヴィニシウス | 『Getz/Gilberto』スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト(1964) |
| 11 | 平和な愛|O Amor em Paz | ジョビン/ヴィニシウス | 『The Composer of Desafinado, Plays』ジョビン(1963) |
| 12 | 夢見る人|Vivo Sonhando | ジョビン | 『Getz/Gilberto』(1964) |
| 13 | トリステ|Triste | ジョビン | 『Wave』ジョビン(1967) |
| 14 | 三月の水|Águas de Março | ジョビン | 『Elis & Tom』エリス・レジーナ&ジョビン(1974) |
| 15 | ジンジ|Dindi | ジョビン/アロイジオ・ヂ・オリヴェイラ | 『The Astrud Gilberto Album』アストラッド・ジルベルト(1965) |
| 16 | ルック・トゥ・ザ・スカイ|Look to the Sky | ジョビン | 『Wave』ジョビン(1967) |
| 17 | ファヴェラ|Favela / O Morro Não Tem Vez | ジョビン/ヴィニシウス | 『The Composer of Desafinado, Plays』ジョビン(1963) |
| 18 | フェリシダージ|A Felicidade | ジョビン/ヴィニシウス | 『Look to the Rainbow』アストラッド・ジルベルト(1966) |
| 19 | いまひとたびの|Outra Vez | ジョビン | 『Dez Anos Depois』ナラ・レオン(1971) |
| 20 | あなたのせいで|Por Causa de Você | ジョビン/ドローレス・ドゥラン | 『Sue Ann』小野リサ(2026) |
| 21 | あなたを愛してしまう|Eu Sei Que Vou Te Amar | ジョビン/ヴィニシウス | 『Sue Ann』小野リサ(2026) |
| 22 | 白と黒のポートレイト|Retrato em Branco e Preto | ジョビン/シコ・ブアルキ | 『Sue Ann』小野リサ(2026) |
| 23 | ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ|Só Tinha de Ser Com Você | ジョビン/アロイジオ・ヂ・オリヴェイラ | 『Sue Ann』小野リサ(2026) |
| 24 | 小舟|O Barquinho | ホベルト・メネスカル/ホナウド・ボスコリ | 『Barquinho』マイーザ(1961) |
| 25 | サマー・サンバ|Samba de Verão | マルコス・ヴァーリ/パウロ・セルジオ・ヴァーリ | 『O Compositor e o Cantor』マルコス・ヴァーリ(1965) |
| 26 | カーニバルの朝|Manhã de Carnaval | ルイス・ボンファ/アントニオ・マリア | 映画『黒いオルフェ』のサウンドトラック(1959) |
| 27 | オルフェのサンバ|Samba de Orfeu | ルイス・ボンファ/アントニオ・マリア | 『Softly!』ワンダ・ヂ・サー(1965) |
| 28 | ビリンバウ|Berimbau | バーデン・パウエル/ヴィニシウス | 『Vinicius & Odette Lara』(1963) |
| 29 | オサーニャの歌|Canto de Ossanha | バーデン・パウエル/ヴィニシウス | 『Os Afro-Sambas』バーデン・パウエル&ヴィニシウス(1966) |
| 30 | ブルー・ボッサ|Blue Bossa | ケニー・ドーハム | 『Page One』ジョー・ヘンダーソン(1963) |
ジョビンはアントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウスはヴィニシウス・ヂ・モライスの略記です。ジョビンとニュートン・メンドンサの共作など、斜線を「左が作曲だけ・右が作詞だけ」とは読みません。歌のない録音でも、曲そのものには歌詞がある場合があります。
歌・器楽・リズムの違いで選ぶ11曲
切ない曲を探す入口として、静かな歌なら小野リサの「白と黒のポートレイト」、言葉のない演奏ならジョビンの「お馬鹿さん」、途中で明暗が変わる曲ならジョアンの「想いあふれて」が候補です。次の11曲は切なさの順位ではなく、歌・器楽・リズムの違いで選ぶ一覧です。
| No. | 曲名 | 録音・聴き分けの入口 |
|---|---|---|
| 2 | 想いあふれて | ジョアンの歌とギター。前半と後半で旋律・和音の明暗を聴き分ける |
| 5 | おいしい水 | アストラッドの歌唱版。短い旋律の反復と軽快な伴奏を聴く |
| 8 | お馬鹿さん | ジョビンの器楽版。歌詞を追わずに旋律の下がり方を聴く |
| 11 | 平和な愛 | ジョビンの器楽版。長い旋律と、下で変わる和音を聴く |
| 17 | ファヴェラ | ジョビンの器楽版。旋律の動きと低音のリズムを聴く |
| 18 | フェリシダージ | アストラッドの歌唱版。映画「黒いオルフェ」に由来する曲を歌声で聴く |
| 22 | 白と黒のポートレイト | 小野リサと林正樹。声とピアノの間の響きから選ぶ |
| 26 | カーニバルの朝 | 映画「黒いオルフェ」の曲。歌唱版とルイス・ボンファのギター版も比較候補 |
| 28 | ビリンバウ | バーデン・パウエルとヴィニシウスの作品。反復するリズムを含めて聴く |
| 29 | オサーニャの歌 | 「Os Afro-Sambas」収録。声と打楽器の応答を含むアフロ・サンバ |
| 30 | ブルー・ボッサ | ジョー・ヘンダーソン「Page One」。サックスとトランペットで聴くジャズ側の曲 |
好みに合う録音が見つかったら、30曲の表で同じ演奏者の別の曲へ進めます。
ボサノヴァ(ボサノバ)とは?ブラジルで生まれた音楽の特徴と歴史

サンバを土台に生まれた、新しい歌とギターの表現
「Bossa Nova」はポルトガル語で、新しい感覚や流儀を表す言葉です。ブラジルのリオデジャネイロを中心に、サンバのリズムをギターに凝縮する伴奏や、近くで話すような歌い方が結び付きました。ブラジルの音楽の蓄積に、ジャズなどとの交流も重なっています。
よく節目として挙げられるのが、ジョアン・ジルベルトが1958年に発表した「Chega de Saudade(想いあふれて)」です。作曲はアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞はヴィニシウス・ヂ・モライス。ひとりの人物がすべてを発明したと考えるより、作る人、歌う人、演奏する人が新しい表現を育てたと捉えると、歴史が見えやすくなります。
ジョビンは「トム・ジョビン」と表記されることもあります。一方、ジョアン・ジルベルトとアストラッド・ジルベルトは別の歌手です。名前が似ているので、音源を探す際は曲名に演奏者名を添えると間違いを減らせます。1960年代にはスタン・ゲッツらとの共演を通じ、ブラジル国外にも広く知られるようになりました。
耳を向けたいのは、声・低音・和音の三つ
最初は歌だけでなく、ギターの低い音を追ってみてください。一定の歩みを感じる低音の上で、高い弦の和音が少し違うタイミングで鳴ります。この二つが重なると、音数が多くなくても前に進む感覚が生まれます。歌は伴奏と毎回同時に始まるとは限らず、そのずれも表情になります。
「シンコペーション」とは、拍の頭だけでなく、拍と拍の間などに音の始まりや重みを置くことです。急に速く弾くという意味ではありません。また、柔らかな歌声が多いからといって、息を大量に漏らせばよいわけでもありません。言葉と旋律が無理なく聞こえることを大切にしましょう。
ナイロン弦ギターは重要な音色ですが、ピアノ、フルート、サックス、弦楽器の合奏などで演奏されることもあります。「ギターがないからボサノバではない」「遅くて静かなら全部ボサノバ」と、楽器や速さだけで決めることはできません。曲の出自と演奏の仕方を一緒に聴くのが近道です。
「Bossa Nova」「ボサノバ調」は音楽用語として何を指す?
同じ「ボサノバ」という言葉でも、音楽の名前、楽譜の演奏指定、編曲の傾向の三つを区別すると読み違えを防げます。
| 表記 | 意味 |
|---|---|
| Bossa Nova(ポルトガル語) | 「新しい傾向」。bossaは「素質・傾向・魅力・乗り」などを表す語 |
| 楽譜の「Bossa Nova」「Bossa」 | ボサノバのリズムで演奏する指定。拍は均等に割り、跳ねさせない |
| ボサノバ調・ボサノバ風 | 別ジャンルの曲をボサノバのリズム・和音で編曲したもの |
デサフィナードの歌詞には「Isto é bossa nova(これがボサノバ)」という一節があります。ただし、この言葉が音楽の呼び名として公の場で使われたのは、それより前の1957年とする説もあり、曲名だけを語源と決めつけないほうが正確です。
ボサノバの楽器編成と、ギターの「バチーダ」
中心になる楽器は、ナイロン弦ギター(ブラジルでは「ヴィオラォン」)とピアノです。ギターは親指でサンバの大太鼓「スルド」の一定の拍を、ほかの指で小型の打楽器「タンボリン」のシンコペーションを表します。この弾き方を「バチーダ」と呼び、叩き合わせる・混ぜ合わせるという意味を持つ言葉です。
| 楽器 | ボサノバでの役割 | 聴ける録音の例 |
|---|---|---|
| ナイロン弦ギター | バチーダで低音と和音のリズムを一人で作る | ジョアン・ジルベルト『Chega de Saudade』 |
| ピアノ | 和音と旋律。作曲者ジョビンの楽器 | ジョビン『The Composer of Desafinado, Plays』 |
| 歌 | 抑えた音量で言葉と旋律を運ぶ | アストラッド・ジルベルト『Getz/Gilberto』 |
| テナーサックス | 旋律と即興でジャズとの橋渡しをする | スタン・ゲッツ『Jazz Samba』 |
| ベース・ドラム | 低音と細かな拍を下から支える | 『Getz/Gilberto』 |
| 弦楽合奏 | 編曲で響きを広げる | ジョビン『Wave』(編曲クラウス・オガーマン) |
バチーダの具体的な右手の動きは、後半の「ボサノバギターの弾き方」で二小節の練習表を使って説明します。
ボサノバとジャズ・サンバの違いは?
ボサノバとジャズは、和音や即興演奏を通じて関わり合ってきました。ただし、ボサノバを単純に「ゆっくりしたジャズ」と言い換えると、ブラジルのリズムや歌の文化が見えなくなります。ジャズも幅の広い音楽なので、以下は聴き始めるための目安です。

| 比べる点 | ボサノバ | ジャズ | サンバ |
|---|---|---|---|
| 成り立ち | ブラジルのサンバを土台に発展 | アメリカの黒人音楽を中心に成立し、多様に展開 | アフロ・ブラジルの文化を背景に多様な形で発展 |
| リズムの聴き方 | 低音の拍と和音のずれを聴く | スウィングを含む多様な拍の扱いを聴く | 打楽器などの重なりと二拍の流れを聴く |
| 歌・演奏の傾向 | 抑えた音量でも細かな表情をつける | 即興や演奏者ごとの解釈が大きな魅力 | 歌、踊り、合奏など形態によって表情が変わる |
| 注意点 | 速い曲や器楽演奏もある | すべてが跳ねるリズムではない | 大人数で賑やかな演奏だけではない |
「スウィング」は、八分音符を機械的に等分せず、長短や重みの関係で弾ませる感覚を指すときに使われます。ボサノバを練習するときは、まず拍を二つに均等に割ることを土台にします。そこへジャズ風の跳ね方を一律に加えると、目指す録音から離れる場合があります。
同じ曲を、歌とギターの少人数編成、サックスが長く独奏する編成で聴き比べてみましょう。曲は同じでも、前に出る要素が違います。「スタンダード」とは、多くの演奏者が繰り返し取り上げる定番曲のこと。ボサノバ由来の曲がジャズのスタンダードにもなるため、二つの名前が同じ作品に付くのは不自然ではありません。
ジャズのスタンダードになったボサノバ曲(原題と英語題の対応表)
ボサノバの名曲の多くは英語の歌詞が付けられ、ジャズのセッションでも定番曲になりました。楽譜や録音は英語題で探すと見つかりやすくなります。スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの『Getz/Gilberto』は、第7回グラミー賞(1965年)で最優秀アルバム賞を受けています。
| 原題 | 英語題 | 英語詞 |
|---|---|---|
| Garota de Ipanema | The Girl from Ipanema | ノーマン・ギンベル |
| Chega de Saudade | No More Blues | ジョン・ヘンドリックスほか |
| Corcovado | Quiet Nights of Quiet Stars | ジーン・リース |
| Insensatez | How Insensitive | ノーマン・ギンベル |
| Meditação | Meditation | ノーマン・ギンベル |
| O Amor em Paz | Once I Loved | レイ・ギルバート |
| Samba de Uma Nota Só | One Note Samba | ジョン・ヘンドリックス |
| Samba de Verão | So Nice (Summer Samba) | ノーマン・ギンベル |
| Manhã de Carnaval | A Day in the Life of a Fool | カール・シグマン |
| Blue Bossa | (ジャズ側で作曲された器楽曲) | ― |
英語詞は曲によって別の版もあります。ジャズ側の定番曲を作曲者・キー・形式つきで確認したい場合は、ジャズの名曲・スタンダード50選も参考にしてください。
ラテンジャズ・MPBとの違い
ボサノバとアフロ・キューバン・ジャズはリズムの土台が異なり、MPBは特定の伴奏型より広いブラジルの歌の流れを指します。
| 呼び名 | 何を指すか | ボサノバとの関係 |
|---|---|---|
| ラテンジャズ | ラテンアメリカのリズムを使うジャズの総称 | 大きくキューバ系とブラジル系に分かれ、ブラジル系にサンバやボサノバが含まれる |
| アフロ・キューバン・ジャズ | キューバの舞踊音楽が土台。クラーベなどの反復リズムを使う | 土台のリズムがキューバ系で、ボサノバとは別の流れ |
| MPB(Música Popular Brasileira) | 1960年代半ばに広まった、ブラジルのポピュラー音楽の呼び名 | ボサノバ以後の歌の音楽。エリス・レジーナ、ナラ・レオンらも含まれる |
名曲・代表曲30選①まず聴きたい定番10曲
ここからは私が入門の順番として選んだ30曲です。売上や人気投票の順位ではありません。同じ曲の別名・英語名は一曲として数え、後半では周辺ジャンルの重要曲も区別して紹介します。記載する演奏者は、録音を探す入口となる例で、必ずしも初演者・作曲者を意味しません。聴きどころは、比較するときの着眼点として使ってください。

1.イパネマの娘|Garota de Ipanema / The Girl from Ipanema
入口には、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルト、アストラッド・ジルベルトが参加する録音が向いています。歌声が変わる場面やサックスが入る場面で、伴奏の落ち着きがどう保たれるかを追ってみましょう。知っている旋律でも、ギターの音の始まりだけに集中すると新しい発見があります。
2.想いあふれて|Chega de Saudade / No More Blues
歴史をたどるなら、ジョアン・ジルベルトの録音から。ジョビン自身の演奏と比べる方法もあります。短調の陰りと長調の明るさが切り替わる流れに注目すると、単なる穏やかな背景音楽ではないことが分かります。英語名「No More Blues」は別曲として重複させずに探しましょう。
3.デサフィナード|Desafinado
ゲッツとジョアンの共演、またはジョビンの器楽版を入口に。旋律には予想どおりに着地しない面白さがあり、背後の和音と一緒に聴くとその輪郭を捉えやすくなります。
4.コルコヴァード|Corcovado / Quiet Nights of Quiet Stars
「Quiet Nights of Quiet Stars」という英語題でも探せます。『Getz/Gilberto』の歌唱版と、ジョビンの『The Composer of Desafinado, Plays』の器楽版が聴き比べの候補です。
5.おいしい水|Água de Beber
アストラッド・ジルベルトの歌、ジョビンの演奏を聴き比べる入口にできます。短い動機、つまり繰り返される小さな旋律のまとまりを見つけやすい曲です。繰り返しのたびに伴奏や歌の置き方へ注意を移すと、同じ素材からどう変化を生むかが分かります。題名だけでゆったりした曲と決めずに聴いてみましょう。
6.ワン・ノート・サンバ|Samba de Uma Nota Só / One Note Samba
ジョビンの演奏やゲッツとチャーリー・バードの録音を入口に。同じ高さの音が続く部分で、下のコードが動く効果を確かめられます。ただし、全編が一音だけでできた曲ではありません。旋律が動く部分との対比まで聴くと、曲名に込められた仕掛けが立体的になります。
7.波|Wave
ジョビンのアルバム『波』の表題曲。歌のない演奏から入るなら、旋律の線と周囲の楽器の響きを分けて追ってみましょう。ピアノやギターに弦楽器が重なる音作りは、歌とギターだけの録音との比較にも役立ちます。
8.お馬鹿さん|Insensatez / How Insensitive
ジョビンやエリス・レジーナの録音を入口にできる、陰影を味わいたい曲です。邦題と英語名の印象が違っても、同じ作品を指します。
9.メディテーション|Meditação / Meditation
ジョビンの録音で、旋律が長く続くときの伴奏を聴く入口に。題名は「瞑想」と表記されることもあります。まとまりごとに息を置く場所を感じ、途中で急いでしまわないように聴いてみましょう。
10.ソ・ダンソ・サンバ|Só Danço Samba
入口の録音は『Getz/Gilberto』収録の「Só Danço Samba」です。ジョビンの『The Composer of Desafinado, Plays』にも収録され、日本盤では「ジャズ・サンバ」と表記されることがあります。アルバム『Jazz Samba』と同名なので、探すときは原題と演奏者名を添えると曲を取り違えません。
名曲・代表曲30選②ジョビンの和音と歌を味わう13曲
次の13曲では、器楽の『Wave』、二人の歌が聴ける『Elis & Tom』、声とピアノの『Sue Ann』へと録音の選択肢が広がります。練習用の曲集は録音と調や構成が異なる場合があるため、聴く盤と使う譜面は分けて選びましょう。

11.平和な愛|O Amor em Paz / Once I Loved
『The Composer of Desafinado, Plays』の器楽版が入口です。英語題は「Once I Loved」で、英語の歌唱版を探すときはこの題名も使えます。
12.夢見る人|Vivo Sonhando / Dreamer
『ゲッツ/ジルベルト』やジョビンの録音で聴ける曲。曲名が英語だけの音源を探す場合も、演奏者名を一緒に入力すると区別できます。フレーズ、つまり旋律のひとまとまりが次のまとまりへどう受け渡されるかを聴いてみてください。
13.トリステ|Triste
ジョビンの『波』に収録された演奏や、エリス・レジーナとの共演が入口です。似た名前の「Tristeza(トリステーザ)」とは別曲なので、検索時に注意しましょう。同じ曲の器楽版と歌唱版で、旋律の区切りがどう聞こえるかを比べると、声と楽器の違いを楽しめます。
14.三月の水|Águas de Março / Waters of March
エリス・レジーナとジョビンの共演を入口に、短い旋律が連なる展開を聴いてみましょう。初期のボサノバから先へ広がるジョビンの表現を知る一曲です。歌の言葉を急いで覚える前に、短いまとまりの長さと受け渡しに注目すると、音楽の会話として楽しめます。
15.ジンジ|Dindi
アストラッド・ジルベルトの『The Astrud Gilberto Album』で聴けます。「おいしい水」と同じ歌手・同じアルバムから次の一曲を選びたいときの候補です。
16.ルック・トゥ・ザ・スカイ|Look to the Sky
ジョビンの『Wave』に収録された器楽曲です。表題曲「波」を気に入ったら、同じアルバムの中で続けて聴ける候補になります。
17.ファヴェラ|Favela / O Morro Não Tem Vez
ジョビンの自作自演集を入口にできる作品です。題名は盤によって表記が異なるため、原題も確認すると探しやすくなります。旋律と伴奏のどちらが前へ出るかを聴きながら、落ち着きと躍動が両立するところを探してみてください。「ボサノバは眠くなる音楽」という思い込みを広げてくれます。
18.フェリシダージ|A Felicidade
アストラッド・ジルベルトの歌や、小野リサによるジョビン作品集が入口になります。映画『黒いオルフェ』とも関わる曲で、ボサノバと周辺のブラジル音楽をつなぐ作品として聴きたい一曲。明るく聞こえる部分と、少し陰りを感じる部分を、自分の言葉でメモしてみるのも楽しい聴き方です。
19.いまひとたびの|Outra Vez
ナラ・レオンの録音を入口に、歌の自然な運びへ耳を向けます。同名の別作品を避けるため、「ジョビン」や演奏者名を添えて探してください。言葉の一つひとつを強調するより、まとまり全体がどう流れるかを聴くと、伴奏を細かく刻みすぎないヒントが得られます。
20.あなたのせいで|Por Causa de Você
小野リサの『Sue Ann~アントニオ・カルロス・ジョビンへのオマージュ』を入口にできます。ジョビンの歌の世界には、リズムの型だけでは語れない作品もあります。この曲は歌の表情や長い線を味わう方向で聴いてみましょう。似た題名の「Por Causa de Você, Menina」とは別作品です。
21.あなたを愛してしまう|Eu Sei Que Vou Te Amar
小野リサの同作品集などで、ジョビンの抒情的な歌を聴く入口に。抒情的とは、気持ちの動きを丁寧に表すという意味です。伴奏の音数が少ない場面で歌がどう続くかに注目してみてください。一定の伴奏型を最後まで当てはめることだけが、ボサノバの曲を演奏する方法ではないと気付けます。
22.白と黒のポートレイト|Retrato em Branco e Preto
小野リサと林正樹による『Sue Ann』の録音が入口です。声とピアノの組合せを聴きたい人は、サックスを含む『Getz/Gilberto』とは異なる編成から選べます。
23.ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ|Só Tinha de Ser Com Você
小野リサの『Sue Ann』に収録されています。原題は「Só Tinha de Ser Com Você」で、同じジョビン作品でも「Por Causa de Você」とは別の曲です。
名曲・代表曲30選③作曲家の広がりと周辺の重要曲7曲
ここではジョビン以外の作品にも進みます。最後の三曲は、アフロ・サンバやジャズ側の曲を含む聴き比べの枠です。ボサノバの代表曲と全く同じ出自だと一括りにせず、リズムや編成の違いを楽しんでください。
24.小舟|O Barquinho
ホベルト・メネスカルとホナウド・ボスコリによる曲。ワルター・ワンダレイの演奏を入口にすると、歌やギターだけでなくオルガンの音色でも楽しめます。弾き語り版と比べて、旋律の受け渡しや伴奏の軽さがどう変わるかを聴いてみましょう。作曲家の幅を広げる最初の一曲にも向いています。
25.サマー・サンバ|Samba de Verão / So Nice
マルコス・ヴァーリの録音を入口にできる、マルコスとパウロ・セルジオ・ヴァーリの作品です。「So Nice」と「Summer Samba」は探すときに覚えておきたい別表記。親しみやすい旋律を追いつつ、歌の後ろの拍を感じてみましょう。鼻歌で覚えたあとに伴奏を聴くと、表面だけでは分からなかった動きが見つかります。
26.カーニバルの朝|Manhã de Carnaval
ルイス・ボンファ作曲の、映画『黒いオルフェ』に結び付く名曲。「オルフェの歌」と表記されることもあり、エリゼッチ・カルドーソの録音が入口になります。ボサノバの文脈でも広く演奏される映画歌曲として、歌の長い線を聴きたい作品です。次の「オルフェのサンバ」とは別曲として楽しみましょう。
27.オルフェのサンバ|Samba de Orfeu
ワンダ・ヂ・サーの録音では「Sweet Happy Life」という英語名でも探せます。「カーニバルの朝」と同じ映画に関わるボンファの作品ですが、題名の印象だけで取り違えないようにしましょう。二曲を続けて聴き、旋律の動き方やリズムの表情がどれほど違うかを言葉にしてみると面白い比較になります。
28.ビリンバウ|Berimbau【周辺の重要曲】
バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モライスの作品。ヴィニシウスとオデッチ・ララの録音などを入口に、アフロ・ブラジルの要素を強く感じる方向へ進みます。題名は弓状の楽器の名前です。ボサノバ周辺で親しまれる曲ですが、静かなカフェ音楽という枠だけでは捉えきれない力強さにも注目してください。
29.オサーニャの歌|Canto de Ossanha【アフロ・サンバ】
バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モライスの録音を入口に。アフロ・サンバの重要作として、反復されるリズムと声の関係を聴きたい曲です。ジョビンの静かな録音と比べれば、ブラジル音楽の広がりを感じられます。同じ国の音楽だから同じリズムだと考えず、一曲ずつ聴き分けてみましょう。
30.ブルー・ボッサ|Blue Bossa【ジャズ側の関連曲】
ケニー・ドーハム作曲で、ジョー・ヘンダーソンのアルバム『Page One』が入口です。ボサノバの影響を感じるジャズの定番として位置付け、ブラジルで生まれた初期ボサノバと区別して聴きます。テーマのあとに続く独奏へ耳を向けると、同じ和音の流れから演奏者が新しい旋律を作る即興の面白さを体験できます。
30選に入れていない、サンバ寄りの有名曲(マシュ・ケ・ナダなど)
ボサノバの名曲と一緒に紹介されることが多いものの、成り立ちがサンバ側にある曲です。30曲と聴き比べると、ボサノバとサンバの違いをつかみやすくなります。
| 曲名|原題 | 作者 | 初出・広まった録音 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| マシュ・ケ・ナダ|Mas Que Nada | ジョルジ・ベン | 1966年のセルジオ・メンデス&ブラジル’66版が米ビルボードHot 100で47位 | サンバ(サンバ・ホッキ) |
| オ・パト|O Pato | ジャイミ・シルヴァ/ネウザ・テイシェイラ | 1960年、ジョアン・ジルベルト『O Amor, o Sorriso e a Flor』 | 1940年代後半に作られたサンバ。ジョアンの録音で初期ボサノバの定番に |
| トリステーザ|Tristeza | ハロルド・ロボ/ニルチーニョ | アリ・コルドヴィルによる録音は1965年。1966年のカーニバルで広まった | カーニバルのサンバ |
| ブラジル|Aquarela do Brasil | アリ・バホーゾ | 1939年、フランシスコ・アルヴィス | 祖国をたたえる「サンバ・エザルタサォン」の代表曲 |
ボサノバの代表的な歌手・演奏家と名盤
ボサノバの中心人物は、作曲のジョビン、歌とギターのジョアン・ジルベルト、作詞のヴィニシウス・ヂ・モライスの3人です。録音を探すときは、下の人物と名盤から入ると迷いにくくなります。
歌手・演奏家と役割
| 人物 | 生没年 | 役割 | この記事の関連曲・作品 |
|---|---|---|---|
| アントニオ・カルロス・ジョビン | 1927–1994 | 作曲・ピアノ。30選のうち23曲を作曲 | イパネマの娘、波 |
| ジョアン・ジルベルト | 1931–2019 | 歌・ギター。「ボサノヴァの父」と呼ばれる | 想いあふれて、デサフィナード |
| ヴィニシウス・ヂ・モライス | 1913–1980 | 詩人・作詞家・外交官 | イパネマの娘、ビリンバウ |
| アストラッド・ジルベルト | 1940–2023 | 歌。英語圏で「Queen of Bossa Nova」の愛称 | イパネマの娘、おいしい水 |
| スタン・ゲッツ | 1927–1991 | 米国のテナーサックス奏者 | 『Jazz Samba』『Getz/Gilberto』 |
| チャーリー・バード | 1925–1999 | 米国のジャズギタリスト | 『Jazz Samba』 |
| ルイス・ボンファ | 1922–2001 | ギター・作曲 | カーニバルの朝 |
| バーデン・パウエル | 1937–2000 | ギター・作曲 | ビリンバウ、オサーニャの歌 |
| エリス・レジーナ | 1945–1982 | 歌(ボサノバ、MPB) | 三月の水 |
| ナラ・レオン | 1942–1989 | 歌。「ボサノヴァのミューズ」と呼ばれる | いまひとたびの |
| セルジオ・メンデス | 1941–2024 | ピアノ・バンドリーダー | マシュ・ケ・ナダ |
| マルコス・ヴァーリ | 1943– | 歌・作曲 | サマー・サンバ |
| 小野リサ | 1962– | 歌・ギター。1989年『カトピリ』でデビュー | 『Sue Ann』のジョビン作品 |
入門に聴きたい名盤8枚
最初の1枚なら、ジャズの聴き手にも広まった『Getz/Gilberto』が入りやすい作品です。ボサノバの成り立ちから聴くなら『Chega de Saudade』から始めましょう。
| アルバム | 演奏者 | 発表年・レーベル | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 『Chega de Saudade』 | ジョアン・ジルベルト | 1959・Odeon | 最初のボサノバ・アルバムとよく紹介される |
| 『Jazz Samba』 | スタン・ゲッツ&チャーリー・バード | 1962・Verve | 米ビルボードのアルバムチャートで1位 |
| 『The Composer of Desafinado, Plays』 | ジョビン | 1963・Verve | ジョビン自作曲の器楽集。編曲クラウス・オガーマン |
| 『Getz/Gilberto』 | スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト | 1964・Verve | 第7回グラミー賞の最優秀アルバム賞 |
| 『Os Afro-Sambas』 | バーデン・パウエル&ヴィニシウス | 1966・Forma | 「オサーニャの歌」を収録 |
| 『Wave』 | ジョビン | 1967・A&M | 表題曲「波」を含む器楽中心の作品 |
| 『Francis Albert Sinatra & Antonio Carlos Jobim』 | フランク・シナトラ&ジョビン | 1967・Reprise | ジョビン作品を英語で歌う |
| 『Elis & Tom』 | エリス・レジーナ&ジョビン | 1974・Philips | 「三月の水」を収録 |
人物の生没年と名盤の基本情報は、レーベル・アーティスト情報などを参照しています。録音例と年の扱い、周辺曲の訂正に用いた資料は末尾に示しています。
ボサノバのコード進行:記号の意味と三つの練習例

maj7・m7・9は、和音に含める音の目印
コードは、複数の音を組み合わせた和音のことです。Cはド・ミ・ソ、Cmaj7はそこにシを加えた和音。Dm7はレ・ファ・ラ・ド、G7はソ・シ・レ・ファです。「maj7」は長七度、「m7」は短三和音に短七度を加える記号で、単に数字が大きいほど難しいという意味ではありません。
「テンション」は、和音の基本的な音に加える9度などの音を指します。Cを基準とする9度は、ドから一オクターブ上のレ。たとえばC6/9はド・ミ・ソにラとレを加えた響きです。すべての音を毎回ギターで鳴らす必要はなく、実際の演奏では音を選んで押さえます。
ボサノバらしい和音を作ろうとして、すべてのコードに9や13を付ける必要はありません。歌の音とぶつかる場合もあります。まずは譜面に示された基本形と、その場の旋律との関係を耳で確かめましょう。楽器が違えば押さえやすい音の並びも変わります。
音程や和音の基本をまとめて確認したい場合は、音楽理論の早見表で、音程・音階・コード進行を順番に整理できます。
練習例1:Dm7 → G7 → Cmaj7
以下は仕組みを学ぶための練習用進行で、特定の名曲を採譜したものではありません。「| Dm7 | G7 | Cmaj7 | Cmaj7 |」を、一つの縦線の区切りにつき四拍で鳴らします。最初は一小節に一回だけ弾けば十分です。
これはCメジャー、つまりハ長調での「Ⅱ–Ⅴ–Ⅰ(ツー・ファイブ・ワン)」です。Cの音階上で二番目、五番目、一番目を根音とする和音が、準備、緊張、落ち着きという流れを作ります。根音とはコード名の土台の音。Dm7ならレ、G7ならソ、Cmaj7ならドです。
音の動きにも注目しましょう。Dm7のドがG7のシへ、G7のファがCmaj7のミへ半音下がると、次の響きへ滑らかにつながります。こうした音のつなぎ方を「声部進行」といいます。声部は和音の中の一つの旋律の線と考えると分かりやすく、歌声だけに使う言葉ではありません。
Ⅱ–Ⅴ–Ⅰに使う和音が音階のどこから作られるかは、ダイアトニックコード一覧で12キー分を確認できます。
練習例2:Dm7♭5 → G7 → Cm6
短調の響きを試すなら、「| Dm7♭5 | G7 | Cm6 | Cm6 |」。Dm7♭5はレ・ファ・ラ♭・ド、Cm6はド・ミ♭・ソ・ラです。「♭5」は五番目の音を半音下げる意味で、ここではラがラ♭になります。Cm6の6はラを指し、ラ♭ではない点にも注意してください。
基本形に慣れたら、G7をG7(♭9)に変えて響きを比べます。この場合はラ♭を加えますが、無理に全音を同時に押さえる必要はありません。加えた音がどう聞こえるかを確認する実験と考えましょう。長調と短調の進行を交互に弾くと、終わりの雰囲気を比較できます。
練習例3:Cmaj7 → A7 → Dm7 → G7
「| Cmaj7 | A7 | Dm7 | G7 |」を繰り返すと、一周して戻る練習ができます。A7はラ・ド♯・ミ・ソで、次のDm7へ向かう力を作ります。このように、一時的に別のコードへ向かわせる働きを「セカンダリー・ドミナント」と呼びます。名前を暗記する前に、A7からDm7へのつながりを聴いてみてください。
これらの進行はジャズなどにも登場します。コード進行だけでボサノバになるわけではなく、低音の置き方、和音を鳴らすタイミング、音の長さが合わさって表情が生まれます。名曲を弾くときは、曲ごとの構成や転調、つまり途中で調が変わる箇所を譜面で確認しましょう。
ボサノバギターの弾き方:親指の低音と和音を分ける「バチーダ」

最初は一つのコードで、右手だけに集中する
右利き用ギターの一般的な弾き方では、右手の親指が低い弦、人差し指・中指・薬指が高い弦を担当します。譜面のp・i・m・aは、この順の指を示す記号です。左利きで構える場合も、弦を弾く側の手の役割として読み替えてください。最初は各指を大きく振らず、小さな動きで音量をそろえます。
押さえる例としてCmaj7の「x32000」を使えます。数字は六弦から一弦の順のフレット番号、0は開放弦、xは鳴らさない弦です。ここでは親指で五弦三フレットのドを、他の指で三・二・一弦を鳴らします。これは手を分けるための練習形で、すべての曲に使う完成形ではありません。
低音だけを一定に鳴らせたら、和音だけを別に練習します。両方を組み合わせた途端に低音まで和音につられて動く場合は、いったん和音の回数を減らしてください。「親指を頑張って独立させる」と力むより、動きを少なくした状態で成功する回数を増やすほうが確認しやすくなります。
二小節の練習パターンを、ゆっくり組み合わせる
以下は四拍子で数える練習例です。ボサノバの譜面には二拍子の表記もあり、これが唯一の正しい型という意味ではありません。「1・&・2・&・3・&・4・&」と均等に数え、&は拍の間を表します。表の●は弾き始める位置、―は新しく弾かない位置です。
| 小節と担当 | 1 | & | 2 | & | 3 | & | 4 | & |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 一小節目・低音 | ● | ― | ― | ― | ● | ― | ― | ― |
| 一小節目・和音 | ● | ― | ― | ● | ― | ― | ● | ― |
| 二小節目・低音 | ● | ― | ― | ― | ● | ― | ― | ― |
| 二小節目・和音 | ― | ― | ● | ― | ― | ● | ― | ― |
はじめは和音を次の発音まで自然に伸ばし、音を止める操作はあとで調整します。表の―は必ず音を止める記号ではありません。止め方まで一度に増やすと、弾くタイミングが崩れやすいためです。拍の数字を声で数え、まず和音の位置を手拍子で再現してから弦を弾いてみましょう。
テンポは、たとえば四分音符を一分間に60回鳴らす速さから始められます。「BPM」は一分間の拍数です。60でも難しければ和音の回数を減らし、止まらず続く条件を優先してください。速さの数字が同じでも、譜面がどの音符を一拍と数えているかで感じ方は変わります。
低音の交互奏と、音を止めるタイミング
同じ低音を安定して弾けたら、根音と五度を交互にする方法も試せます。Cならドとソです。ただし、先ほどのx32000を押さえたまま六弦開放を弾くとミになり、ソではありません。ソを低音にしたいときは六弦三フレットなど、実際の音と指の届き方を確認します。慣れるまではドだけでも構いません。
消音とは、鳴っている弦の振動を止めることです。右手の指を弦に戻す、押さえた左手の力を少し緩めるなどの方法がありますが、開放弦は左手を緩めるだけでは止まりません。まず一つの和音で、鳴らす・止めるを静かに試し、指板や弦を強く叩かないようにします。
よくあるつまずきは、低音が強すぎる、和音を急ぐ、コード変更で拍が止まる、歌を入れると右手が変わることです。一度に直す項目は一つに絞りましょう。手首や指に痛みが出る場合は力で押し切らず、姿勢や押さえ方を先生などに見てもらうと調整点が分かります。
ボサノバの始め方:練習の順番と道具の選び方

一回15分なら、聴く・分ける・合わせる・録る
練習時間を区切るなら、最初の三分で一曲の短い部分を聴き、次の四分で低音と和音を別々に確認し、五分で一つのコードに組み合わせ、最後の三分で録音と振り返りを行う方法があります。これは時間配分の例で、何日で上達するという保証ではありません。短くしても、最後に一つ確認する流れを残しましょう。
録音では「上手かどうか」を一度に判断せず、「低音の間隔はそろったか」「和音が入る前に速くならなかったか」「一周の終わりまで数えられたか」を別々に聴きます。できた部分を一つ、次に直す部分を一つ書くと、翌日の練習を始めやすくなります。
弾き語りに進む順番は、伴奏だけ、旋律の鼻歌だけ、伴奏に短い鼻歌を重ねる、最後に歌詞という形が取り組みやすいでしょう。ポルトガル語の歌なら、発音や言葉の区切りも学びます。原曲と同じ速さや調に無理に合わせず、声が出しやすい調の楽譜を選ぶ方法もあります。
ギターはナイロン弦の感触と持ちやすさを確かめる
ナイロン弦のクラシックギターは、ボサノバの音色を試す有力な選択肢です。すでにスチール弦ギターを持っているなら、その楽器で右手を分ける練習から始めることもできます。ただし、ナイロン弦用の楽器にスチール弦を張ることは避け、指定された種類の弦を使ってください。
ナイロン弦ギターの弦の種類や構え方、アコースティックギターとの違いは、クラシックギター初心者ガイドで詳しく解説しています。
試奏では、低い音が出るかだけでなく、指が隣の弦に触れないか、腕や肩に負担がないか、コードを変える動きができるかを見ます。指板の幅や弦の高さは弾きやすさに関わるため、「初心者向け」という表示だけで決めず、実際に構えてみましょう。ケースや調整、教わる費用も含めて検討できます。
候補の一つはヤマハクラシックギターCG122MSです。表板にスプルース単板を使うモデルで、単板とは一枚の板からなる材のこと。ナイロン弦ギターを試す選択肢になりますが、握り心地は人によって違い、通常のCG122MSは電気的に音を出す装置を備えるCGXとは別モデルです。ライブで音を大きくしたい場合は、集音方法も考える必要があります。
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一定の拍を確認する道具は、一つあれば始められる
ヤマハチューナーメトロノームTDM-710は、音の高さを確認するチューナーと、一定の拍を鳴らすメトロノームをまとめた道具です。ギターの調弦と低音の間隔を確認するときの選択肢になります。一方で、表示に合わせるだけではボサノバの間合いは身に付かず、曲を聴く練習も必要です。
すでに使えるチューナーやメトロノームのアプリがあるなら、急いで買い足す必要はありません。専用機を選ぶ場合は、表示の見やすさや操作のしやすさ、練習場所で音が聞こえるかを確認しましょう。価格や在庫は変動するため、購入先の表示と型番を確認してください。
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ボサノバについてよくある疑問
ボサノバの有名な曲は?
「イパネマの娘」「想いあふれて」「おいしい水」「波」が入口です。冒頭の30曲一覧には作者、探すための録音例、そのアルバムの発表年をまとめています。
ボサノバで有名な歌手・演奏家は?
歌とギターのジョアン・ジルベルト、歌手のアストラッド・ジルベルトとエリス・レジーナ、作曲のジョビン、サックスのスタン・ゲッツが代表的です。日本では小野リサ。
ボサノバの女王は誰?
英語圏ではアストラッド・ジルベルトが「Queen of Bossa Nova」の愛称で呼ばれます。日本では小野リサをそう紹介する例もあります。
ボサノバはどこの国の音楽?
1950年代後半のブラジル・リオデジャネイロで、サンバを土台に生まれました。1958年のジョアン・ジルベルトの「想いあふれて」が節目とされます。
ボサノバとジャズの違いは?
ボサノバはブラジルのサンバを土台にした歌とリズムの表現で、米国で発展したジャズは即興や多様なリズムを含みます。同じボサノバ曲をジャズとして演奏することもあり、跳ねるかどうかだけでは区別できません。
ボサノバジャズの名盤は?
スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの『Getz/Gilberto』(1964年)が入口です。グラミー賞の最優秀アルバム賞を受けた作品です。
夏に聴きたいボサノバの名曲は?
題名が「夏のサンバ」を意味する「サマー・サンバ(Samba de Verão)」と、リオの海辺の地区イパネマを歌った「イパネマの娘」が定番です。
女性ボーカルのボサノバ名曲は?
アストラッド・ジルベルトの「イパネマの娘」「おいしい水」、エリス・レジーナがジョビンと歌った「三月の水」が入口です。ナラ・レオンの「いまひとたびの」もあります。
初心者が最初に聴くなら、どの曲がよい?
歌とサックスなら「イパネマの娘」、歌とギターなら「想いあふれて」、旋律と和音の関係なら「ワン・ノート・サンバ」が入口です。聴いて好きな曲と、今の技術で弾きやすい練習曲は分けて選べます。
ボサノバは難しいコードを覚えないと弾けない?
右手の基礎は一つのコードから練習できます。実際の曲へ進むときは、曲固有の複雑な和音や転調を扱える初級編曲の譜面を選ぶと取り組みやすくなります。
爪を伸ばすことや、ギターの胴を叩くことは必須?
爪を伸ばすことも、ギターの胴を叩くことも必須ではありません。指の腹でも、低音・和音・消音の練習を始められます。
「ボサノバ」と「ボサノヴァ」は違う音楽?
どちらもBossa Novaの日本語表記です。人名・曲名にも表記の揺れがあるので、見つからないときは原題・演奏者名・収録アルバムを組み合わせて探してください。
まとめ:気になった一曲を、低音に注目して聴いてみよう
ボサノバの魅力は、サンバを土台にしたリズム、歌の自然な間合い、移り変わる和音が結び付くところにあります。ジャズとの共通点を知りながら、ブラジルの歌とギターの表現にも耳を向けると、30曲それぞれの違いを楽しめます。
一覧から一曲選び、一回目は歌や旋律、二回目は低音、三回目は和音に注意して聴いてみてください。ギターでも試すなら、二小節の表を使って一つのコードから始められます。
出典・参考資料
- Everything Jazz:成立の歴史と代表曲
- Universal Music:Getz/Gilbertoの収録曲と演奏者
- Universal Music:Getz/Gilbertoの録音年と発売年
- Instituto Antônio Carlos Jobim:The Composer of Desafinado, Plays
- 小野リサ公式:作品一覧とSue Ann
- Funarte:Para Ouvir o Samba(Tristezaの1965年録音と1966年の流行)
- IMMuB:Carnaval 1966(1965年盤の収録曲・歌手)
情報確認日:2026年10月16日。






