カフェで流れる、柔らかなギターと語りかけるような歌。「この音楽がボサノバなのかな」「ジャズとは何が違うのだろう」と気になったことはありませんか。楽器を弾くあなたなら、あの軽やかな伴奏を自分でも試してみたくなるかもしれません。
ボサノバは、1950年代末のブラジルで形になった、サンバを土台とする音楽です。落ち着いた歌声、拍の間を生かすギター、細やかに移り変わる和音が大きな魅力。静かな音楽という印象だけでなく、その内側にあるリズムを聴くと、楽しみ方が広がります。
この記事では、基本とジャズとの違いを整理したうえで、名曲・代表曲と周辺の重要曲を合わせて30曲紹介します。後半では、コード記号の読み方、練習用の進行、ギターの右手の動かし方まで順番に説明します。歌詞や市販譜の転載はせず、曲の聴き方と自分で試せる練習を中心に進めましょう。
- ボサノバとは?ブラジルで生まれた音楽の特徴と歴史
- ボサノバとジャズ・サンバの違いは?
- 名曲・代表曲30選①まず聴きたい定番10曲
- 1.イパネマの娘|Garota de Ipanema / The Girl from Ipanema
- 2.想いあふれて|Chega de Saudade / No More Blues
- 3.デサフィナード|Desafinado
- 4.コルコヴァード|Corcovado / Quiet Nights of Quiet Stars
- 5.おいしい水|Água de Beber
- 6.ワン・ノート・サンバ|Samba de Uma Nota Só / One Note Samba
- 7.波|Wave
- 8.お馬鹿さん|Insensatez / How Insensitive
- 9.メディテーション|Meditação / Meditation
- 10.ソ・ダンソ・サンバ|Só Danço Samba
- 名曲・代表曲30選②ジョビンの和音と歌を味わう13曲
- 11.平和な愛|O Amor em Paz / Once I Loved
- 12.夢見る人|Vivo Sonhando / Dreamer
- 13.トリステ|Triste
- 14.三月の水|Águas de Março / Waters of March
- 15.ジンジ|Dindi
- 16.ルック・トゥ・ザ・スカイ|Look to the Sky
- 17.ファヴェラ|Favela / O Morro Não Tem Vez
- 18.フェリシダージ|A Felicidade
- 19.いまひとたびの|Outra Vez
- 20.あなたのせいで|Por Causa de Você
- 21.あなたを愛してしまう|Eu Sei Que Vou Te Amar
- 22.白と黒のポートレイト|Retrato em Branco e Preto
- 23.ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ|Só Tinha de Ser Com Você
- 名曲・代表曲30選③作曲家の広がりと周辺の重要曲7曲
- ボサノバのコード進行:記号の意味と三つの練習例
- ギター奏法の特徴:親指の低音と和音を分ける
- ボサノバの始め方:練習の順番と道具の選び方
- ボサノバについてよくある疑問
- 気になった一曲を、低音に注目して聴いてみよう
ボサノバとは?ブラジルで生まれた音楽の特徴と歴史

サンバを土台に生まれた、新しい歌とギターの表現
「Bossa Nova」はポルトガル語で、新しい感覚や流儀を表す言葉です。ブラジルのリオデジャネイロを中心に、サンバのリズムをギターに凝縮する伴奏や、近くで話すような歌い方が結び付きました。ブラジルの音楽の蓄積に、ジャズなどとの交流も重なっています。
よく節目として挙げられるのが、ジョアン・ジルベルトが1958年に発表した「Chega de Saudade(想いあふれて)」です。作曲はアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞はヴィニシウス・ヂ・モライス。ひとりの人物がすべてを発明したと考えるより、作る人、歌う人、演奏する人が新しい表現を育てたと捉えると、歴史が見えやすくなります。
ジョビンは「トム・ジョビン」と表記されることもあります。一方、ジョアン・ジルベルトとアストラッド・ジルベルトは別の歌手です。名前が似ているので、音源を探す際は曲名に演奏者名を添えると間違いを減らせます。1960年代にはスタン・ゲッツらとの共演を通じ、ブラジル国外にも広く知られるようになりました。
耳を向けたいのは、声・低音・和音の三つ
最初は歌だけでなく、ギターの低い音を追ってみてください。一定の歩みを感じる低音の上で、高い弦の和音が少し違うタイミングで鳴ります。この二つが重なると、音数が多くなくても前に進む感覚が生まれます。歌は伴奏と毎回同時に始まるとは限らず、そのずれも表情になります。
「シンコペーション」とは、拍の頭だけでなく、拍と拍の間などに音の始まりや重みを置くことです。急に速く弾くという意味ではありません。また、柔らかな歌声が多いからといって、息を大量に漏らせばよいわけでもありません。言葉と旋律が無理なく聞こえることを大切にしましょう。
ナイロン弦ギターは重要な音色ですが、ピアノ、フルート、サックス、弦楽器の合奏などで演奏されることもあります。「ギターがないからボサノバではない」「遅くて静かなら全部ボサノバ」と、楽器や速さだけで決めることはできません。曲の出自と演奏の仕方を一緒に聴くのが近道です。
ボサノバとジャズ・サンバの違いは?
ボサノバとジャズは、和音や即興演奏を通じて関わり合ってきました。ただし、ボサノバを単純に「ゆっくりしたジャズ」と言い換えると、ブラジルのリズムや歌の文化が見えなくなります。ジャズも幅の広い音楽なので、以下は聴き始めるための目安です。

| 比べる点 | ボサノバ | ジャズ | サンバ |
|---|---|---|---|
| 成り立ち | ブラジルのサンバを土台に発展 | アメリカの黒人音楽を中心に成立し、多様に展開 | アフロ・ブラジルの文化を背景に多様な形で発展 |
| リズムの聴き方 | 低音の拍と和音のずれを聴く | スウィングを含む多様な拍の扱いを聴く | 打楽器などの重なりと二拍の流れを聴く |
| 歌・演奏の傾向 | 抑えた音量でも細かな表情をつける | 即興や演奏者ごとの解釈が大きな魅力 | 歌、踊り、合奏など形態によって表情が変わる |
| 注意点 | 速い曲や器楽演奏もある | すべてが跳ねるリズムではない | 大人数で賑やかな演奏だけではない |
「スウィング」は、八分音符を機械的に等分せず、長短や重みの関係で弾ませる感覚を指すときに使われます。ボサノバを練習するときは、まず拍を二つに均等に割ることを土台にします。そこへジャズ風の跳ね方を一律に加えると、目指す録音から離れる場合があります。
同じ曲を、歌とギターの少人数編成、サックスが長く独奏する編成で聴き比べてみましょう。曲は同じでも、前に出る要素が違います。「スタンダード」とは、多くの演奏者が繰り返し取り上げる定番曲のこと。ボサノバ由来の曲がジャズのスタンダードにもなるため、二つの名前が同じ作品に付くのは不自然ではありません。
サンバとの違いも、速度計のように数値で線引きすることはできません。サンバには小編成の演奏や落ち着いた歌もあります。ボサノバでは特に、ギターの低音と和音、歌の配置を細かく聴いてみると、その表現の工夫に気付きやすくなります。
名曲・代表曲30選①まず聴きたい定番10曲
ここからは私が入門の順番として選んだ30曲です。売上や人気投票の順位ではありません。同じ曲の別名・英語名は一曲として数え、後半では周辺ジャンルの重要曲も区別して紹介します。記載する演奏者は、録音を探す入口となる例で、必ずしも初演者・作曲者を意味しません。聴きどころは、比較するときの着眼点として使ってください。

1.イパネマの娘|Garota de Ipanema / The Girl from Ipanema
入口には、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルト、アストラッド・ジルベルトが参加する録音が向いています。歌声が変わる場面やサックスが入る場面で、伴奏の落ち着きがどう保たれるかを追ってみましょう。知っている旋律でも、ギターの音の始まりだけに集中すると新しい発見があります。
2.想いあふれて|Chega de Saudade / No More Blues
歴史をたどるなら、ジョアン・ジルベルトの録音から。ジョビン自身の演奏と比べる方法もあります。短調の陰りと長調の明るさが切り替わる流れに注目すると、単なる穏やかな背景音楽ではないことが分かります。英語名「No More Blues」は別曲として重複させずに探しましょう。
3.デサフィナード|Desafinado
ゲッツとジョアンの共演、またはジョビンの器楽版を入口に。旋律には予想どおりに着地しない面白さがあり、背後の和音と一緒に聴くとその輪郭を捉えやすくなります。練習では最初から弾き語りにせず、旋律をゆっくり覚える段階と伴奏を覚える段階を分けると整理できます。
4.コルコヴァード|Corcovado / Quiet Nights of Quiet Stars
ゲッツ/ジルベルト盤やジョビンの演奏で、音と音の間を味わいたい曲。伸びる旋律の下で和音の色が移るところを探してみてください。静かな曲ほど伴奏を埋めたくなりますが、音を足さずに待つことも表現です。ギターを録音するなら、弾く瞬間だけでなく止める瞬間も確認しましょう。
5.おいしい水|Água de Beber
アストラッド・ジルベルトの歌、ジョビンの演奏を聴き比べる入口にできます。短い動機、つまり繰り返される小さな旋律のまとまりを見つけやすい曲です。繰り返しのたびに伴奏や歌の置き方へ注意を移すと、同じ素材からどう変化を生むかが分かります。題名だけでゆったりした曲と決めずに聴いてみましょう。
6.ワン・ノート・サンバ|Samba de Uma Nota Só / One Note Samba
ジョビンの演奏やゲッツとチャーリー・バードの録音を入口に。同じ高さの音が続く部分で、下のコードが動く効果を確かめられます。ただし、全編が一音だけでできた曲ではありません。旋律が動く部分との対比まで聴くと、曲名に込められた仕掛けが立体的になります。
7.波|Wave
ジョビンのアルバム『波』の表題曲。歌のない演奏から入るなら、旋律の線と周囲の楽器の響きを分けて追ってみましょう。ピアノやギターに弦楽器が重なる音作りは、歌とギターだけの録音との比較にも役立ちます。落ち着いた印象でも、実際に弾くには和音の流れを丁寧に整理したい曲です。
8.お馬鹿さん|Insensatez / How Insensitive
ジョビンやエリス・レジーナの録音を入口にできる、陰影を味わいたい曲です。邦題と英語名の印象が違っても、同じ作品を指します。練習するときは、コード名を次々と追う前に、低音がどちらへ動くかを聴いてください。伴奏の流れを耳でつかむと、指の形を覚える意味も見えやすくなります。
9.メディテーション|Meditação / Meditation
ジョビンの録音で、旋律が長く続くときの伴奏を聴く入口に。題名は「瞑想」と表記されることもあります。まとまりごとに息を置く場所を感じ、途中で急いでしまわないように聴いてみましょう。ゆっくりした曲を練習する難しさは、音の少ない場所でも拍を見失わないことにあります。
10.ソ・ダンソ・サンバ|Só Danço Samba
ゲッツとルイス・ボンファの録音、ジョビンの演奏などで探せます。日本盤では「ジャズ・サンバ」と表記される場合もあるため、原題を添えると確実です。明るい流れを聴きながら、低音と和音がすべて一緒に鳴っているかを確かめましょう。リズムを身体で感じる入口にもなります。
名曲・代表曲30選②ジョビンの和音と歌を味わう13曲
次の13曲では、華やかさだけでなく、歌の間や和音の変化にも耳を向けます。「声→低音→和音の内側」という順に聴く対象を変えると、一度にすべてを理解しようとするより楽しめます。ギターだけで演奏する曲集と、原曲の録音は調や構成が違うこともあるので、練習用の譜面は選んだ録音と別に確認してください。

11.平和な愛|O Amor em Paz / Once I Loved
ジョビンの自作自演集を入口に、和音の変わり目へ耳を向けたい作品です。メロディーだけでは分からなかった緊張と落ち着きが、低音を追うと感じられる場合があります。自分で弾くなら、まず各コードを一回ずつ鳴らし、伴奏リズムを加える前に響きの順番を覚えてみましょう。
12.夢見る人|Vivo Sonhando / Dreamer
『ゲッツ/ジルベルト』やジョビンの録音で聴ける曲。曲名が英語だけの音源を探す場合も、演奏者名を一緒に入力すると区別できます。フレーズ、つまり旋律のひとまとまりが次のまとまりへどう受け渡されるかを聴いてみてください。音を伸ばすことと拍を止めることは別だと感じる練習にもなります。
13.トリステ|Triste
ジョビンの『波』に収録された演奏や、エリス・レジーナとの共演が入口です。似た名前の「Tristeza(トリステーザ)」とは別曲なので、検索時に注意しましょう。同じ曲の器楽版と歌唱版で、旋律の区切りがどう聞こえるかを比べると、声と楽器の違いを楽しめます。
14.三月の水|Águas de Março / Waters of March
エリス・レジーナとジョビンの共演を入口に、短い旋律が連なる展開を聴いてみましょう。初期のボサノバから先へ広がるジョビンの表現を知る一曲です。歌の言葉を急いで覚える前に、短いまとまりの長さと受け渡しに注目すると、音楽の会話として楽しめます。
15.ジンジ|Dindi
アストラッド・ジルベルトの録音を入口に。ゆったり歌う曲でも、伴奏は先へ進む役目を持っています。声が伸びている間に、背景でどの音が変わったかを一つ探してみてください。大きな音で強調しなくても気持ちの変化を伝えられる点は、弾き語りをする人にも参考になります。
16.ルック・トゥ・ザ・スカイ|Look to the Sky
ジョビンの『波』から、器楽曲としての楽しさを味わう一曲です。メロディーを担当する音と、空間を支える音を分けて聴いてみましょう。歌のある曲だけでプレイリストを作っていたなら、このような演奏を挟むことで耳の向け先が変わり、同じ作曲家の別の表情に出会えます。
17.ファヴェラ|Favela / O Morro Não Tem Vez
ジョビンの自作自演集を入口にできる作品です。題名は盤によって表記が異なるため、原題も確認すると探しやすくなります。旋律と伴奏のどちらが前へ出るかを聴きながら、落ち着きと躍動が両立するところを探してみてください。「ボサノバは眠くなる音楽」という思い込みを広げてくれます。
18.フェリシダージ|A Felicidade
アストラッド・ジルベルトの歌や、小野リサによるジョビン作品集が入口になります。映画『黒いオルフェ』とも関わる曲で、ボサノバと周辺のブラジル音楽をつなぐ作品として聴きたい一曲。明るく聞こえる部分と、少し陰りを感じる部分を、自分の言葉でメモしてみるのも楽しい聴き方です。
19.いまひとたびの|Outra Vez
ナラ・レオンの録音を入口に、歌の自然な運びへ耳を向けます。同名の別作品を避けるため、「ジョビン」や演奏者名を添えて探してください。言葉の一つひとつを強調するより、まとまり全体がどう流れるかを聴くと、伴奏を細かく刻みすぎないヒントが得られます。
20.あなたのせいで|Por Causa de Você
小野リサの『Sue Ann~アントニオ・カルロス・ジョビンへのオマージュ』を入口にできます。ジョビンの歌の世界には、リズムの型だけでは語れない作品もあります。この曲は歌の表情や長い線を味わう方向で聴いてみましょう。似た題名の「Por Causa de Você, Menina」とは別作品です。
21.あなたを愛してしまう|Eu Sei Que Vou Te Amar
小野リサの同作品集などで、ジョビンの抒情的な歌を聴く入口に。抒情的とは、気持ちの動きを丁寧に表すという意味です。伴奏の音数が少ない場面で歌がどう続くかに注目してみてください。一定の伴奏型を最後まで当てはめることだけが、ボサノバの曲を演奏する方法ではないと気付けます。
22.白と黒のポートレイト|Retrato em Branco e Preto
小野リサのジョビン作品集を入口に、複雑な陰影を持つ和音に触れる一曲です。最初からコードをすべて分析せず、上の旋律と一番下の音だけを分けて聴いてみましょう。色合いが変わったと感じる場所を見つけてから譜面を確認すると、知識と耳の印象を結び付けやすくなります。
23.ソ・チーニャ・ヂ・セール・コン・ヴォセ|Só Tinha de Ser Com Você
こちらも小野リサのジョビン作品集で探せます。長い題名はコピーして検索すると便利です。一つの歌を別の演奏者でも聴き、速さや伴奏、声の間合いの違いを比べてみましょう。代表曲を知る次の段階として、自分の好みが「曲」なのか「その録音の表現」なのかを考える入口になります。
名曲・代表曲30選③作曲家の広がりと周辺の重要曲7曲
ここではジョビン以外の作品にも進みます。最後の三曲は、アフロ・サンバやジャズ側の曲を含む聴き比べの枠です。ボサノバの代表曲と全く同じ出自だと一括りにせず、リズムや編成の違いを楽しんでください。
24.小舟|O Barquinho
ホベルト・メネスカルとホナウド・ボスコリによる曲。ワルター・ワンダレイの演奏を入口にすると、歌やギターだけでなくオルガンの音色でも楽しめます。弾き語り版と比べて、旋律の受け渡しや伴奏の軽さがどう変わるかを聴いてみましょう。作曲家の幅を広げる最初の一曲にも向いています。
25.サマー・サンバ|Samba de Verão / So Nice
マルコス・ヴァーリの録音を入口にできる、マルコスとパウロ・セルジオ・ヴァーリの作品です。「So Nice」と「Summer Samba」は探すときに覚えておきたい別表記。親しみやすい旋律を追いつつ、歌の後ろの拍を感じてみましょう。鼻歌で覚えたあとに伴奏を聴くと、表面だけでは分からなかった動きが見つかります。
26.カーニバルの朝|Manhã de Carnaval
ルイス・ボンファ作曲の、映画『黒いオルフェ』に結び付く名曲。「オルフェの歌」と表記されることもあり、エリゼッチ・カルドーソの録音が入口になります。ボサノバの文脈でも広く演奏される映画歌曲として、歌の長い線を聴きたい作品です。次の「オルフェのサンバ」とは別曲として楽しみましょう。
27.オルフェのサンバ|Samba de Orfeu
ワンダ・ヂ・サーの録音では「Sweet Happy Life」という英語名でも探せます。「カーニバルの朝」と同じ映画に関わるボンファの作品ですが、題名の印象だけで取り違えないようにしましょう。二曲を続けて聴き、旋律の動き方やリズムの表情がどれほど違うかを言葉にしてみると面白い比較になります。
28.ビリンバウ|Berimbau【周辺の重要曲】
バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モライスの作品。ヴィニシウスとオデッチ・ララの録音などを入口に、アフロ・ブラジルの要素を強く感じる方向へ進みます。題名は弓状の楽器の名前です。ボサノバ周辺で親しまれる曲ですが、静かなカフェ音楽という枠だけでは捉えきれない力強さにも注目してください。
29.オサーニャの歌|Canto de Ossanha【アフロ・サンバ】
バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モライスの録音を入口に。アフロ・サンバの重要作として、反復されるリズムと声の関係を聴きたい曲です。ジョビンの静かな録音と比べれば、ブラジル音楽の広がりを感じられます。同じ国の音楽だから同じリズムだと考えず、一曲ずつ聴き分けてみましょう。
30.ブルー・ボッサ|Blue Bossa【ジャズ側の関連曲】
ケニー・ドーハム作曲で、ジョー・ヘンダーソンのアルバム『Page One』が入口です。ボサノバの影響を感じるジャズの定番として位置付け、ブラジルで生まれた初期ボサノバと区別して聴きます。テーマのあとに続く独奏へ耳を向けると、同じ和音の流れから演奏者が新しい旋律を作る即興の面白さを体験できます。
ボサノバのコード進行:記号の意味と三つの練習例

maj7・m7・9は、和音に含める音の目印
コードは、複数の音を組み合わせた和音のことです。Cはド・ミ・ソ、Cmaj7はそこにシを加えた和音。Dm7はレ・ファ・ラ・ド、G7はソ・シ・レ・ファです。「maj7」は長七度、「m7」は短三和音に短七度を加える記号で、単に数字が大きいほど難しいという意味ではありません。
「テンション」は、和音の基本的な音に加える9度などの音を指します。Cを基準とする9度は、ドから一オクターブ上のレ。たとえばC6/9はド・ミ・ソにラとレを加えた響きです。すべての音を毎回ギターで鳴らす必要はなく、実際の演奏では音を選んで押さえます。
ボサノバらしい和音を作ろうとして、すべてのコードに9や13を付ける必要はありません。歌の音とぶつかる場合もあります。まずは譜面に示された基本形と、その場の旋律との関係を耳で確かめましょう。楽器が違えば押さえやすい音の並びも変わります。
練習例1:Dm7 → G7 → Cmaj7
以下は仕組みを学ぶための練習用進行で、特定の名曲を採譜したものではありません。「| Dm7 | G7 | Cmaj7 | Cmaj7 |」を、一つの縦線の区切りにつき四拍で鳴らします。最初は一小節に一回だけ弾けば十分です。
これはCメジャー、つまりハ長調での「Ⅱ–Ⅴ–Ⅰ(ツー・ファイブ・ワン)」です。Cの音階上で二番目、五番目、一番目を根音とする和音が、準備、緊張、落ち着きという流れを作ります。根音とはコード名の土台の音。Dm7ならレ、G7ならソ、Cmaj7ならドです。
音の動きにも注目しましょう。Dm7のドがG7のシへ、G7のファがCmaj7のミへ半音下がると、次の響きへ滑らかにつながります。こうした音のつなぎ方を「声部進行」といいます。声部は和音の中の一つの旋律の線と考えると分かりやすく、歌声だけに使う言葉ではありません。
練習例2:Dm7♭5 → G7 → Cm6
短調の響きを試すなら、「| Dm7♭5 | G7 | Cm6 | Cm6 |」。Dm7♭5はレ・ファ・ラ♭・ド、Cm6はド・ミ♭・ソ・ラです。「♭5」は五番目の音を半音下げる意味で、ここではラがラ♭になります。Cm6の6はラを指し、ラ♭ではない点にも注意してください。
基本形に慣れたら、G7をG7(♭9)に変えて響きを比べます。この場合はラ♭を加えますが、無理に全音を同時に押さえる必要はありません。加えた音がどう聞こえるかを確認する実験と考えましょう。長調と短調の進行を交互に弾くと、終わりの雰囲気を比較できます。
練習例3:Cmaj7 → A7 → Dm7 → G7
「| Cmaj7 | A7 | Dm7 | G7 |」を繰り返すと、一周して戻る練習ができます。A7はラ・ド♯・ミ・ソで、次のDm7へ向かう力を作ります。このように、一時的に別のコードへ向かわせる働きを「セカンダリー・ドミナント」と呼びます。名前を暗記する前に、A7からDm7へのつながりを聴いてみてください。
これらの進行はジャズなどにも登場します。コード進行だけでボサノバになるわけではなく、低音の置き方、和音を鳴らすタイミング、音の長さが合わさって表情が生まれます。名曲を弾くときは、曲ごとの構成や転調、つまり途中で調が変わる箇所を譜面で確認しましょう。
ギター奏法の特徴:親指の低音と和音を分ける

最初は一つのコードで、右手だけに集中する
右利き用ギターの一般的な弾き方では、右手の親指が低い弦、人差し指・中指・薬指が高い弦を担当します。譜面のp・i・m・aは、この順の指を示す記号です。左利きで構える場合も、弦を弾く側の手の役割として読み替えてください。最初は各指を大きく振らず、小さな動きで音量をそろえます。
押さえる例としてCmaj7の「x32000」を使えます。数字は六弦から一弦の順のフレット番号、0は開放弦、xは鳴らさない弦です。ここでは親指で五弦三フレットのドを、他の指で三・二・一弦を鳴らします。これは手を分けるための練習形で、すべての曲に使う完成形ではありません。
低音だけを一定に鳴らせたら、和音だけを別に練習します。両方を組み合わせた途端に低音まで和音につられて動く場合は、いったん和音の回数を減らしてください。「親指を頑張って独立させる」と力むより、動きを少なくした状態で成功する回数を増やすほうが確認しやすくなります。
二小節の練習パターンを、ゆっくり組み合わせる
以下は四拍子で数える練習例です。ボサノバの譜面には二拍子の表記もあり、これが唯一の正しい型という意味ではありません。「1・&・2・&・3・&・4・&」と均等に数え、&は拍の間を表します。表の●は弾き始める位置、―は新しく弾かない位置です。
| 小節と担当 | 1 | & | 2 | & | 3 | & | 4 | & |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 一小節目・低音 | ● | ― | ― | ― | ● | ― | ― | ― |
| 一小節目・和音 | ● | ― | ― | ● | ― | ― | ● | ― |
| 二小節目・低音 | ● | ― | ― | ― | ● | ― | ― | ― |
| 二小節目・和音 | ― | ― | ● | ― | ― | ● | ― | ― |
はじめは和音を次の発音まで自然に伸ばし、音を止める操作はあとで調整します。表の―は必ず音を止める記号ではありません。止め方まで一度に増やすと、弾くタイミングが崩れやすいためです。拍の数字を声で数え、まず和音の位置を手拍子で再現してから弦を弾いてみましょう。
テンポは、たとえば四分音符を一分間に60回鳴らす速さから始められます。「BPM」は一分間の拍数です。60でも難しければ和音の回数を減らし、止まらず続く条件を優先してください。速さの数字が同じでも、譜面がどの音符を一拍と数えているかで感じ方は変わります。
低音の交互奏と、音を止めるタイミング
同じ低音を安定して弾けたら、根音と五度を交互にする方法も試せます。Cならドとソです。ただし、先ほどのx32000を押さえたまま六弦開放を弾くとミになり、ソではありません。ソを低音にしたいときは六弦三フレットなど、実際の音と指の届き方を確認します。慣れるまではドだけでも構いません。
消音とは、鳴っている弦の振動を止めることです。右手の指を弦に戻す、押さえた左手の力を少し緩めるなどの方法がありますが、開放弦は左手を緩めるだけでは止まりません。まず一つの和音で、鳴らす・止めるを静かに試し、指板や弦を強く叩かないようにします。
よくあるつまずきは、低音が強すぎる、和音を急ぐ、コード変更で拍が止まる、歌を入れると右手が変わることです。一度に直す項目は一つに絞りましょう。手首や指に痛みが出る場合は力で押し切らず、姿勢や押さえ方を先生などに見てもらうと調整点が分かります。
ボサノバの始め方:練習の順番と道具の選び方

一回15分なら、聴く・分ける・合わせる・録る
練習時間を区切るなら、最初の三分で一曲の短い部分を聴き、次の四分で低音と和音を別々に確認し、五分で一つのコードに組み合わせ、最後の三分で録音と振り返りを行う方法があります。これは時間配分の例で、何日で上達するという保証ではありません。短くしても、最後に一つ確認する流れを残しましょう。
録音では「上手かどうか」を一度に判断せず、「低音の間隔はそろったか」「和音が入る前に速くならなかったか」「一周の終わりまで数えられたか」を別々に聴きます。できた部分を一つ、次に直す部分を一つ書くと、翌日の練習を始めやすくなります。
弾き語りに進む順番は、伴奏だけ、旋律の鼻歌だけ、伴奏に短い鼻歌を重ねる、最後に歌詞という形が取り組みやすいでしょう。ポルトガル語の歌なら、発音や言葉の区切りも学びます。原曲と同じ速さや調に無理に合わせず、声が出しやすい調の楽譜を選ぶ方法もあります。
ギターはナイロン弦の感触と持ちやすさを確かめる
ナイロン弦のクラシックギターは、ボサノバの音色を試す有力な選択肢です。すでにスチール弦ギターを持っているなら、その楽器で右手を分ける練習から始めることもできます。ただし、ナイロン弦用の楽器にスチール弦を張ることは避け、指定された種類の弦を使ってください。
試奏では、低い音が出るかだけでなく、指が隣の弦に触れないか、腕や肩に負担がないか、コードを変える動きができるかを見ます。指板の幅や弦の高さは弾きやすさに関わるため、「初心者向け」という表示だけで決めず、実際に構えてみましょう。ケースや調整、教わる費用も含めて検討できます。
候補の一つはヤマハクラシックギターCG122MSです。表板にスプルース単板を使うモデルで、単板とは一枚の板からなる材のこと。ナイロン弦ギターを試す選択肢になりますが、握り心地は人によって違い、通常のCG122MSは電気的に音を出す装置を備えるCGXとは別モデルです。ライブで音を大きくしたい場合は、集音方法も考える必要があります。
※この記事にはアフィリエイトリンクが含まれています。
YAMAHA クラシックギター CG122MS
¥24,105
Amazon.co.jp 調べ ・ 2026年9月12日 4:15時点
※価格および在庫状況は変更される場合があります。
※Amazon.co.jpアソシエイトリンクを使用しています。
一定の拍を確認する道具は、一つあれば始められる
ヤマハチューナーメトロノームTDM-710は、音の高さを確認するチューナーと、一定の拍を鳴らすメトロノームをまとめた道具です。ギターの調弦と低音の間隔を確認するときの選択肢になります。一方で、表示に合わせるだけではボサノバの間合いは身に付かず、曲を聴く練習も必要です。
すでに使えるチューナーやメトロノームのアプリがあるなら、急いで買い足す必要はありません。専用機を選ぶ場合は、表示の見やすさや操作のしやすさ、練習場所で音が聞こえるかを確認しましょう。価格や在庫は変動するため、購入先の表示と型番を確認してください。
YAMAHA チューナーメトロノーム TDM-710
¥3,927
Amazon.co.jp 調べ ・ 2026年9月12日 4:16時点
※価格および在庫状況は変更される場合があります。
※Amazon.co.jpアソシエイトリンクを使用しています。
ボサノバについてよくある疑問
初心者が最初に聴くなら、どの曲がよい?
まず「イパネマの娘」で全体の雰囲気を知り、「想いあふれて」でジョアンの歌とギターを聴き、「ワン・ノート・サンバ」で和音の変化を意識する順番が一案です。三曲すべてを練習曲にする必要はありません。聴いて好きな曲と、今の技術で弾きやすい曲を分けて選んでも大丈夫です。
ボサノバは難しいコードを覚えないと弾けない?
名曲の中には複雑な和音や転調を含むものもありますが、右手の基礎は一つのコードで練習できます。まず低音と和音のタイミングを分け、次に二つのコードへ増やしましょう。すべての名曲を同じ簡単な進行で弾けるわけではないので、曲に進む段階では適切な初級編曲を選ぶと取り組みやすくなります。
爪を伸ばすことや、ギターの胴を叩くことは必須?
爪の使い方は音色や奏者の好みで変わり、指の腹でも練習できます。胴を叩く動作も必須ではありません。まずは低音、和音、消音だけでリズムを作ってみましょう。派手な動きを増やすより、小さい音量でも拍が安定することを目指すと、自分の音を聴く余裕が生まれます。
「ボサノバ」と「ボサノヴァ」は違う音楽?
どちらもBossa Novaの日本語表記です。曲名や人名にも「ヂ・モライス/ジ・モライス」「トリステ/トリスチ」のような表記の揺れがあるため、見つからないときは原語の曲名と演奏者名を組み合わせて探してください。似た題名の別曲もあるので、収録アルバムまで確認すると確実です。
気になった一曲を、低音に注目して聴いてみよう
ボサノバの魅力は、サンバを土台にしたリズム、歌の自然な間合い、移り変わる和音が結び付くところにあります。ジャズとの共通点を知りながら、ブラジルの歌とギターの表現にも耳を向けると、30曲それぞれの違いを楽しめます。
まずは一覧から一曲選び、一回目は歌や旋律、二回目は低音、三回目は和音に注意して聴いてみてください。ギターがあれば、一つのコードで親指と他の指を分ける練習へ。たくさんの曲名や難しい記号を一度に覚えるより、好きな一曲から聴くポイントを増やしていきましょう。


